梅毒は昔の病気と思われがちですが、近年再び増加しています。2017 年の梅毒感染者が44年ぶりに5千人を超えました。中でも20歳代を中心と した女性の感染者が増加し、それに伴い胎児が感染する先天梅毒も増加 傾向にあります。
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による細菌感染症で す。トレポネーマに感染すると、3~6週の潜伏期の後に、感染箇所に初 期硬結とよばれるしこりや、硬性下疳とよばれる浅い潰瘍がみられます (早期顕性梅毒I期)。梅毒であることに気づかず、治療しなくてもいっ たん回復したようになりますが、その後数週間~数か月を経過するとト レポネーマが血行性に全身に移行し、バラ疹とよばれるうっすらとした 赤い発疹が現れます。(Ⅱ期)。これも無治療であってもしばらくして 消失します。感染後、数年~数十年経過すると、ゴム腫、心血管症状、 神経症状などが出現し(晩期顕性梅毒)、重症となり治療が困難となり ます。梅毒は、早期に診断しペニシリンなどの抗菌薬で治療すれば治癒 しますが、いったん症状が消える無症候期があるため気づかず、診断、 治療の遅れにつながることがあるのが重要な点です。
妊娠中のいずれかの時期に梅毒に感染しても胎児への感染(母子感染
率60~80%)が起こりえますが、その可能性は妊娠後半に高くなります
。先天梅毒は、軽い検査異常のみ軽症例から胎児死亡などの致死的な経
過をとる重症例まで幅広い臨床像を呈します。
・早期先天梅毒(生後3か月以内に発症)手掌や足底の特徴的な水泡様発
疹、斑状皮疹、点状出血、リンパ節腫脹、肝脾腫、黄疸、溶血性貧血、
発育不良、特徴的な粘液膿性または血液が混じった鼻汁、鼻閉
・晩期先天梅毒(生後2歳以降に発症~学童期)Hutchinson3徴候(角膜
実質炎、感音性難聴、Hutchinson 切歯)
近年、梅毒が増加している要因に、東南アジア、中国などから海外渡 航者の増加などが関係している可能性がありますが、梅毒という性感染 症への認識の欠如が大きいとされています。梅毒の初期症状は治療しな くても自然に治ってしまうため、その症状の深刻にとらえず未受診のま ま過ごしている人が多く、感染を広げている原因になっています。
日本では、先天梅毒の発生予防のために、妊娠健診において妊娠初期 に梅毒の検査が行われています。しかし妊娠健診が未受診であったり、 不定期な受診である場合には梅毒の感染に気づかず、適切な治療を受け る機会を逃し、先天梅毒の発生するリスクが高まります。感染が分かれ ば、抗菌薬を服用して母親の梅毒を治療します。妊娠16~20週に感知 すれば、胎児への影響を高い確立で防ぐことができます。妊娠健診の定 期受診がとても重要です。