数年前、10歳代の青少年を中心に、インフルエンザ治療薬であるタミフルを服用した後に「突然走り出す」 「窓から飛び降りようとする」といった異常行動が数多く報告され、自宅のマンションから転落するなど痛ましい 事故の例も報道され、話題になりました。その後の検討で、インフルエンザの異常行動とタミフルとの因果関係ははっきりしないまま、2007年3月から 10歳以上の未成年者にはタミフルの使用を原則、差し控えるよう厚労省から医療機関に通達が出されました。 しかしタミフル以外の治療薬を使用した場合も異常行動はみられ、薬を全く使用していない場合も異常行動はみられています。
インフルエンザによる異常行動は乳幼児や小学生など、10歳未満も含め、幅広い年齢層で現れています。 薬の服用の有無にかかわらず、インフルエンザにかかった子どもは異常行動をおこす可能性があります。 以前からインフルエンザ以外でも高熱が出た場合、うわごとを言ったり、変な行動をとることが知られて います。この状態を「熱せんもう」といいますが、インフルエンザではこの状態を起こす頻度が高いといえます。
厚労省が2007年に行ったインフルエンザ1万人を対象とした調査で、うわごとなど軽い異常行動まで含めると、 インフルエンザと診断された子どもの6~7人に1人は異常行動を経験しているとしています。その実態は、 女の子より男の子に発生しやすく、発熱から2日以内が多いこと、寝ている間に恐怖や脅迫の夢を見たために 目が覚めて、恐怖を避けたり脅迫に従おうとして異常行動がおこるのが典型的なパターンのようです。
異常行動でよく見られるのは、ゾウやライオンなどの動物やポケモンなどのアニメのキャラクターがやって くるなどの幻視、幻覚を中心とした意味不明の言葉をしゃべったりとか、理由もなくひどくおびえたりといった 行動もみられます。激しい場合は、あばれたり、自分の手を食べ物と勘違いしてかじったりすることもあります。 重症の異常行動は、突然走り出したり、飛び降りようとする、制止しなければ生命に影響が及ぶ可能性がある 場合です。インフルエンザにかかった場合、常に異常行動をおこす可能性があることを念頭に置いて、とくに 発症から2日以内は子どもを1人にはしないで、夜間も常に目が届くように配慮することが重要です。
一方、異常行動はこわいインフルエンザ脳症の初期のサインのことがあります。H21年に改訂された「インフル エンザ脳症ガイドライン」によると、異常行動、言動が①連続ないし断続的に1時間以上続くもの ②意識状態が 明らかに悪いか悪化するもの ③けいれんが合併するもの、これらの場合は直ちに2次、3次の医療機関を受診 する必要があるとしています。異常行動、言動の間歇期には意識障害を認めないもの、また短時間で消失する 場合は経過観察で良いとしています。