1989年WHO(ユニセフ)が「母乳育児成功のための10か条」の声明を出しました。これは母乳育児を願うお母さんの思いに、医療スタッフがどのような考えで関わることが大切か、その理論と実践を改めて求める画期的なものでした。
その内容のポイントは、生後30分以内に授乳させ(早期接触、授乳)、できるだけ母児同室とし、赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるままに与え(頻回授乳)、医学的に必要がないのに糖水、湯冷まし、ミルクなどを与えないというものです
現在、この考えはほとんどの産院にいきわたっており、実践されています。しかしながら産科に入院中は70~80%が母乳栄養のみであっても、生後1ヶ月の母乳率は50%、混合栄養は30%、残りの10~20%は人工栄養となっています。以前述べたように、母乳が不足しているのではという不安感からミルクを足してしまうということもありますが、母乳育児が進まない要因はさまざまです。
しかしながら逆にいくら母乳育児を望んでも、どうしても母乳が出ないお母さんや、少しなら出るけど不足してしまうお母さんが、混合栄養や人工栄養になるのはやむをえないことです。母乳が出ない、母乳保育ができないからといって変な罪悪感など持つことはまったくありません。現在のミルクはその組成をみてもほぼ母乳に近いものであり、赤ちゃんが健康に発育するのになんら問題はありません
母乳は、抱いて、目を見て、赤ちゃんに語りかけるように飲ませます。同じようにミルクを哺乳瓶で与えるときも、きちんと抱っこして、語りかけるようにゆっくりとした気持ちで哺乳させてあげてください。横に寝かしたまま飲ませるようなことはしてはいけません。
母乳栄養で少し気になる点があります。まず血液の凝固に必要なビタミンKの不足がおこることがあります。現在、産科退院時と1ヶ月検診時に不足していると思われる場合、ビタミンKの内服を行っています。
またこれもまれですが、ビタミンDが不足することがあり、骨の発育障害をきたす『くる病』を起こす可能性があります。赤ちゃんがビタミンDを体内で十分作れるよう、1日15分程度の日光浴を勧めます。紫外線はガラスを通り抜けることから、日当たりの良い室内の窓際での日光浴でかまいません。
人工乳には、ビタミンKもビタミンDも十分量入っており、このような心配をする必要はありません。