インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスが直接脳に入り込むわけではなく、
ウイルスに対抗しようとした体内の免疫反応が過剰におこること(炎症性サイトカインの嵐)
が原因とされています。脳内の血管の細胞(血管内皮細胞)が炎症性サイトカインの影響を受けると血管の透過性が高まり、
血液中の水分やいろいろな物質が血管外の組織に漏れ脳のむくみ(浮腫)をおこし、脳圧が亢進し
意識障害やけいれんをきたします。
発生頻度
インフルエンザの早期診断に続く抗ウイルス薬使用による治療法が確立しているにもかかわらず、
今でも毎年100人近くの脳症の発症がみられています。
インフルエンザ脳症の特徴
- インフルエンザの流行規模と発生数が比例する。とくにA香港型の流行時に発症する人が増える。
- 1才をピークとして6才以下の乳幼児に多く発生し、発熱から数時間~1日と神経症状がでるまでの時間が短い。
- 主にけいれん、意味不明な言動、急速に進行する意識障害が症状の中心となる。
- わが国で多発し、欧米での報告は非常に少ない。
治療と予後
病状により、ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン大量療法や脳低体温療法、血漿交換療法などがおこなわれ、
この数年の生命予後は8~9%となっていますが、後障害を残す子どもは約25%と変化はなく、相変わらず重篤な
疾患であることに変わりはありません。
予防は可能か?
脳症の原因とされる過剰な免疫反応がなぜ起こってしまうのかまだわかっていないため、画期的な予防手段が
あるわけではありませんが、できるだけかからないよう配慮する必要はあります。
- インフルエンザワクチンの接種
子ども、とくに乳幼児のワクチン接種のねらいは、発症阻止効果よりも脳症などの重症化を防ぐことにありそうです。
- 解熱剤の使用上の注意
39℃以上の熱が出て、元気がなくぐったりしているようなら解熱剤を使用してもかまいません。しかしアスピリンや
メフェナム酸(ポンタール)、ボルタレンはインフルエンザ脳症の誘因や重症化を招くことが明らかになっています。
子どもでインフルエンザの時にこれらの薬を使用することは“禁忌”となっています。現在、インフルエンザに限らず、
小児で安全性が確立されている解熱剤はアセトアミノフェン(アンヒバ、アルピニー、カロナール)のみとなっています。
- 抗ウイルス薬を早く使用することでウイルスの増殖を抑えることができ、ひいては脳症や他の重症の合併症の予防につながります。