最近、慶応大学保健管理センターの木村先生が、子どもの低体温について話されているので紹介しておきましょう。木村先生は、都内の私立学校の校医として在任した1970年から1993年の24年間にわたり、健康小児3109名の体温測定を行いました
その学校では、毎月5月に千葉県館山市で臨海学校を催します。そして毎朝6時と夜9時に、担任や校医が見守る中、全員が腋窩で水銀体温計を用いた15分間の体温測定を行ってきました。従ってほぼ一定の条件下で測定した結果であり、従来の調査と比較して精度の高いデータになっています。
1970~1979年、1980~1989年、1990~1993年の3郡に分けて検討していますが、1日の平均、起床時、就寝時平均体温のいずれも年を追うごとに低下しており、中でも男女ともに起床時の体温の低下傾向が強く認められました。
35度台の低体温児の頻度は、特に起床時において1970年代が1.5%であったのに対し、1990年代には9.3%と6倍に増えていることがわかりました。
体温リズムは視床下部でコントロールされていますが、最近問題になっている低体温児は、自律神経系のバランスが乱れることで体温調節がうまく行われていないと考えられています。
その原因を探ると、幼児期から小児期における自律神経系の発達と関係しているようです。特に2~5歳、子どもが最も活発に動き回る時期に、その行動を制限しすぎたり、外遊びを抑制しすぎたりすると、本来獲得すべき機能がきちんと身につかないことがあります。
冷暖房の普及により快適な環境が得られたものの、暑いとか寒いとかの感覚を覚える機能が十分に備わらないと、寒ければ体を震わせて体温を上昇させ、暑ければ汗を出し体温を下げる、そういった普通の反応が起こりにくく成長してしまいます。家にこもってばかりいて運動をしなければ筋肉の量も減少し、結果的に熱の産生量が低下します。
木村氏は「子どもの低体温化の傾向は、高度成長の始まりである1950年代後半と時期が一致しており、運動量の減少、冷暖房完備の住環境の普及と深くかかわっていることがわかります」と、豊かな社会と子どもの低体温化の関係を指摘しています。
子どもを育てるのに、小さい時からの運動習慣がとても大切です。特に3~5歳までに「歩かせる、走らせる」など、おもいっきり遊ばせて、脳や神経を十分に発達させることが重要で、跳び上がる感覚、走る感覚、痛いという感覚などを、自分で会得するチャンスをもっと増やしてあげることが幼児期には特に大切であることを強調しています。