小児の胃腸炎の7~8割は、ロタ、ノロ、アデノなどのウイルスによるとされています。その他、食べ過ぎ、冷えなどが 原因となりますが、最近は細菌による胃腸炎は、非常に少なくなっています。しかし細菌性腸炎の中には急激な経過をとり、 重症となるものもあり注意する必要があります。細菌性下痢は夏場に多く、血便を伴うこともよくあります。今回は、 小児の細菌性腸炎で血便(粘血便)をきたす代表的な3つの疾患についてです。
大腸菌の中に急性の胃腸炎を起こすものがあり、特にベロ毒素を産生する大腸菌(O157、O26など)は、出血性の 腸炎を起こす毒素の強い細菌です。腸管出血性大腸菌は、もともと牛などの家畜や動物の腸管内に棲む菌です。家畜の 解体作業時に腸管内の菌が食肉を汚染、家畜の糞便が野菜などを汚染、汚染された食肉が調理の際にほかの食材を汚染 するなどして、経口的に感染します。また感染者の便中に排泄された菌が、手指を介して、あるいは食品や物品を介して経口的に周囲の人に感染します。
潜伏期間は平均3~5日(2~14日)、感染者の半数が無症状あるいは軽度の下痢のみでおさまりますが、他は頻回 の水様下痢、腹痛、血便を呈するいわゆる出血性大腸炎となります。
さらにこの中の10~30%が重症の合併症を起こします。とくに合併症として要注意なのが溶血性尿毒症症候群(HUS) です。HUSは、溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全がおもな微候で、発症後5~7日ごろ発症します。元気がない、 顔色が悪い、尿量が少ない、傾眠傾向などがHUSを疑わせる症状で、意識障害、痙攣、昏睡に陥ることもあります。 HUSを発症した児の12%が死亡ないし末期腎不全におちいり、25%が持続性の腎障害をきたしたという報告があります。 また脳症などの合併症もあります。これらの重篤な合併症は、発症後2週間を過ぎれば、危険はなくなったと考えてよいでしょう。
発生状況(表)
治療…HUSのサインに十分配慮し、疑わしい場合は入院加療となります。止痢剤は毒素の排泄を送らせるので使用しません。抗生剤の使用は医師の判断で。