乳幼児は何かにつけて吐いたり下痢したりすることが多いものですが、吐くのは胃の症状で、下痢は腸の症状なので胃腸炎といいます。
小児の胃腸炎の主な原因はウィルスによりますが、ウィルス性胃腸炎が多くなるのは秋の終わりころからです。家で様子を見るだけで改善する軽いものから、下痢嘔吐のため脱水症状をおこし点滴、入院が必要となる重症なものまであります。
ウィルス性胃腸炎の原因としてロタ、ノロ、アデノウィルスなどあげられますが、この中でロタウィルスによる胃腸炎は、我国の一般外来における下痢症の30~40%をしめ、さらに点滴などが必要となる重症胃腸炎の40~60%がロタウィルスが原因とされています。突然の嘔吐で発症し、まもなく水様の下痢から米のとぎ汁様と表現される白っぽい便がでます。ノロウィルスよりも発熱を伴うことが多く重症感があります。
ロタウィルスにはすべての児がほとんど5才になる前に感染するとされていますが、重症になるのは100人中2~3人です。脱水症状に対して適切な医療が施されなければ生命に関わることがあるので、あなどれない病気です。
ロタウィルスには多くの血清型が存在しますが、ノロウィルスと異なり、ある型に一度感染すると他の型に対しても免疫を獲得し、(交差免疫)、次回以降は軽症化します。すなわち初感染が最も重症化するわけです。ちなみに日本のロタウィルス感染は年間120万症例あり、25万人が外来を受診、10~14万人が救急外来を受診し3万人が入院し、10~20人が死亡しています。
おもに便などをふれた手からウィルスが口に入って感染(糞口感染)することが多いようです。ロタウィルスは環境中でも安定なため、吐物などで汚染された物を触れた手からの感染も指摘されています。
感染力は非常に強く、10個程度のウィルスで感染が成立します。患者の1g中には10~100億個ものウィルスが排泄されるため、たとえ衛生状態が良い先進国でもウィルスの感染予防は極めて難しく、生後6ヵ月~2才をピークに5才までに世界中のほぼすべての児がロタウィルスに感染し、胃腸炎を発症します。その強い感染力のため、病院における院内感染も大きな問題となっています。
ロタウィルスが発見されたのは1973年ですが、30年あまりの歳月をかけて、2006年に安全で有効性の高い2つのロタウィルスワクチンが開発されました。誰もが感染し、対症療法しかなく、しかも重症化の恐れがあるロタウィルス胃腸炎に対して、ワクチンの感染予防効果が期待されています。