平成22年5月3日、読売新聞の一面トップに「百日ぜき・免疫不全」という標題で次のような記事が掲載されました。「三種混合ワクチンは、生後3ヶ月~7歳に計4回接種する。これによって、百日咳の免疫は一生、持続すると考えられていた。
ところが、2007年に大学生を中心とした流行が発生した。これを受けて、二つの研究班が11~12歳の266人を対象に、百日咳の抗体量を調べたところ、122人(46%)は発症を防げる水準を下回っていた。
そこで、抗体量の少なかった人のうち57人に、11~12歳で接種する通常の2種混合ワクチンの代わりに、百日咳も加えた3種混合ワクチンを試験接種した。
この3種混合は、乳幼児期に接種するものより有効成分が少ないが、51人(89%)の抗体量が発症を防げる量まで増えた。
乳幼児に受ける百日咳ワクチンの効果が、小学生高学年になると約半数で失われることが明らかになった。社会全体の感染者が減ったため、菌にさらされて免疫を高める機会が乏しくなったのが原因とみられている。」
3年前から国内で百日咳に罹患する人が急増しています。
このうち20歳以上の割合は、2002年頃から増加し、2008年には全体の36.7%を占めています。この傾向は欧米でもみられており、この20年間で、百日咳罹患者数が徐々に増加しています。
日本と同様に乳幼児ではなく年長児や思春期、成人の患者数の増加です。現在使用されている百日咳ワクチンは、10年ほどでその予防効果がなくなるといわれています。すでに欧米では、10歳代に3種混合ワクチンまたは百日咳の抗原量を減らした思春期・成人用のワクチンが接種されています。
【成人の百日咳】
ワクチン接種者や成人の百日咳感染症による咳は、乳幼児期におけるような典型的な特徴(連続性の顔が真っ赤になるひどい咳、吸気時の笛音など)を欠いており、診断の目安となるリンパ球の増多もみられません。咳が続くだけで、医療機関への受診、診断、治療がどうしても遅れてしまいます。
成人で6日~1ヶ月続く咳がある患者さんで、百日咳が原因であった割合は、1~17%(平均13%)であった、という報告があります。思春期、成人の百日咳は気付かれないことが多く、これがワクチンをまだ接種していない乳幼児の感染源になっていることが世界的に問題になっています。
成人の百日咳の予後は、治療により軽快し重症化することはありません。
しかし診断が遅れると、乳幼児への感染源になり、とくにワクチン未接種の乳幼児へ感染した場合は重症になるため、正確で迅速な診断が重要となっています。さらに大切なことは成人の感染を予防するため、ワクチンによる抗体価が低下する時期に再度追加のワクチンをうつ必要性が早急に迫られています。