これまで乳児期(1歳まで)の肥満は、あまり問題にしなくてもよい、と考えられてきました。3か月検診で、標準体重をかなりオーバーしている赤ちゃんも、お座りしてハイハイ、つたい歩きなど活動量が増えてくると、それまでよりすっきりした体型になってゆくのが普通だからです
しかし最近、乳児肥満は従来言われてきたような良性なものではない、という意見がありますので紹介しておきましょう。
成人の生活習慣病とされるメタボリック症候群ですが、その原因は、乳幼児期の栄養状態に、さらにさかのぼり妊娠期(胎児)の栄養状態に起因しており、成人期の生活習慣はその単なるトリガーにすぎないという仮説が提唱されました。
この「成人病胎児期発症(起源)説」が、現在国際的に広く受け入れられ、この数年のトピックスになっています。
すなわち胎児期の低栄養(胎児期に栄養が十分でないと、体に脂肪がつきやすい体質となり肥満になりやすい)と乳幼児期の過度の発育促進(過栄養)が問題とされ、これらが将来のメタボリック症候群の原因に大きく関係しているというものです。
乳児期は、細胞増殖の盛んな時期で、脂肪細胞も例外ではありません。2歳までの乳児期に増加した脂肪細胞は、その時点ではアディポサイトカイン(脂肪細胞から分泌される多くの生物活性物質の総称)をあまり放出しない小型脂肪細胞です。
しかし学童期以降に過栄養で肥満になると大型脂肪細胞に変化して、大量のアディポサイトカインを放出するようになります。これがメタボ症候群の発症に結びつくとされます。
問題は、乳児期にいかなる理由で肥満になっても、一旦増えた脂肪細胞は減少することはない、という点です。そして、その数は維持され、その後過栄養に遭遇すると大型細胞となり、サイトカインを含むいろいろな生物活性物質を放出するようになり、メタボ症候群の進展に重要な役割を担うこととなります。
従って、乳児期の肥満はこれまで言われてきたような単純で良性なものとは言いがたく、とくに乳児期の過度の肥満はさける必要があります。
メタボ症候群の有効かつ安価な予防法は、成人のメタボ健診ではなく、妊婦と乳幼児に対する健康的な食事に向けての食育ということになりそうです。